月刊「広場」_

月刊「広場」9月号

9月号が届く。
表紙は松田朝旭さん。素敵な絵ですねぇ…!
松田さんは、只今開催中の「二科展」(15日まで、国立新美術館)にもご出展されているそうです。
今号には赤塚不二夫氏を悼む投稿&寄稿記事がいくつも載っていて、みなさんそれぞれ、口惜しい気持ちを吐露されてます。改めて氏のご冥福を…
では、月遅れ掲載「並木座ウィークリー」と共に、をどうぞ。


☆「並木座ウィークリー」と共に 第14回 (文と資料・萬雅堂)
東映動画の採用試験を受けることになった私。新規採用の予定は無いというのに何故? この時点でもカズは「形だけだ。採用は決まってるんだから」と、いたって能天気! もっとも、私も(へぇ、そんなものなのかなぁ…)と、ご同様なお気楽者でした。学校でも入社を吹聴してたりしてね。
 西武池袋線大泉学園駅北口から少し歩いた場所、東映大泉撮影所に隣接して東映動画スタジオはあります。前年に友人数人とスタジオ見学していたので、建物や周辺の雰囲気に気圧されることもなく、私自身は落ち着いたものでした(どうせ、形だけだしね・笑)。その試験当日、受験者が7人いた! あとで聞くと、全員が縁故(コネ)関係で入社を希望していた者たちだったという。おそらくいろいろなルートで接触があった連中を、この際まとめて、「試験だけでも受けさせてやろうか」という温情?によるものだったのでしょうね。
 試験内容は(おぼろげな記憶では)陸上のトラックを走る男の、四地点での走行ポーズ(前・後・横位置)と、体操選手の鉄棒からの着地。一枚の枯葉の舞い落ちる様子を描く、というもの。作文もあったっけ。一応、適正を見るには理に適っていますね。私は自信満々「楽勝モノ」で完了です。
 が、結果は全員不合格でした。「息子さんを採用するつもりだったが、適正が無いなら仕方がない」というのが仲介者の言。カズの弁明は、つまりは試験の実施自体が最初から「新規採用はしない」という結論に合わせたものだった。つまり「義理立てのための試験」だったと(だからあきらめろ)と言わんばかり。しかし、これが真実かどうかは、今となればいささか怪しい。本当に見込みが有る人材であれば、「飛込み」だって採用するだろうと思うのですよ。当時の私にそれだけの資質は無かったということなのでしょう。原則を変えさせるだけのね(そして、昭和39年10月16日付の不採用通知が手元に残る。これ、近年カズの遺品の中に発見・笑)。
 拝啓 秋寒の侯、益々御健勝のことと存じます。扨、貴殿当社御志望につき過日実技試験を実施いたしましたが其の結果折角の御志望ではございましたが誠に残念ながら貴意に添え兼ねることとなりましたので何卒御諒承下さい。以上御通知致します。  敬具  東映動画株式会社 勤労課(原文ママ
 私の中では、カズを責める気持ちは起きません。「まぁ、そんなに上手くいくわけはないよな」と。ただ、困ったのは、「進学はしない。就職は自分で決める」と先生に言ってしまった手前、このままだと就職浪人になってしまうなぁということ。なにしろ世間知らずだから、求人のある会社でないと就職できないって思い込んでいた。問い合わせることも思いつかない。だから、「虫プロはどうして求人が無いのかなぁ…」って、それだけ。求人情報に気付かなかったのかもしれないけど(笑)。
 さて、就職コースの女生徒たちは続々入社が決まります。我が道を行くとばかりに泰然自若を気取る私でしたが、「アニメやマンガは夢の世界として、サラリーマンになるのが現実的なのかも」と、某有名企業の「追加採用若干名」という求人を見つけ、それに応募したのです。全くカズには相談せず、私の独断で。卒業後は椎名町に戻って祖母と暮らす決断をしていたから、就職することだけは何としても叶えないといけません!
 筆記試験は無事通過。最終の役員面接にこぎつけました。ここを通れば採用が決まります。さすがにドキドキ…。ところが、この役員面接の場で、とんでもないことが起きたのです。
「君の志望動機を聞かせて」という質問に、「宣伝部に入りたいから」「え?一般事務職の求人だよ」「分かってますが、宣伝部で働きたいのです」この期に及んでも絵を描く仕事につなげたいと思ってたんでしょうね、私って。(こいつはダメだ!)と判断したのか、一人の役員が口を挟みます。「ねぇ、君」「はい」「君は母親が違うんだねぇ…」「はぁ?…(この人何言ってるの)どういうことですか?」その役員は私関連の書類を眺めながら、「だって、戸籍には違う名前が書いてあるよ」「(戸籍なんてこれまで一度も見たこと無かった)…そんなことは…」「知らなかったのかい」「…?(頭ン中、真っ白)?…」そこから先の記憶無く、役員面接が失敗に終ったことは確かです。母親が違う…って、ンなバカなこと……じゃ、私を産んだのは誰なのさ? 
 では53号から56号の紹介。
●53号 扉は ガラス越しの接吻 
オールドファンには鮮烈な記憶として残る写真ですね!コレ。
上映は「また逢う日まで」(東宝作品)
並木座公開作品一周年投票・一位入賞 ということでのアンコール上映です。
製作・坂上静翁 脚本・水木洋子八住利雄 監督・今井正
主演・岡田英次滝沢修久我美子杉村春子
〈解説〉
東宝製作再開第二回目の作品。
太平洋戦争の末期の暗い時代を背景にして、時代の黒い手に儚く散った美しい魂の触れ合いを描いて、恋愛至上主義を高らかにうたい、それを通じて、戦争の悲惨さを描いている。
昭和二十五年度の毎日映画コンクールで第一位を獲得している。
◇「もう一人の今井さん」  井手俊郎
※映画随筆(その25)の再録です(「広場」1月号をご参照)。
〈映画ファン教育(エチケット)〉
開館一年二ヶ月、六十本近い映画の中で<一番人気>の映画を、千九百五十四年の終わりに、皆様が<忘年会>をするみたいに並木座でも、再度「また逢う日まで」の上映を試みた次第。
〈WIPE〉
都内には三百七十五館の映画館がある。人口八百万人として、二万人に一館…。 (1954・12・8)
●54号 扉は マッチ棒で描いた顔 岩田専太郎
上映は「若い人たち」(近代映協・新東宝・全銀連提携作品)
脚本・新藤兼人棚田吾郎 監督・吉村公三郎 
主演・乙羽信子/日高澄子/木村三津子
〈解説〉
都会に働く若人たち、特に女性の恋愛や結婚等の問題を組合運動を通し、更に銀行という機構に托して描いている。
○「映画の計画生産」 能登節雄(製作者)
製作費用の半額を全銀連の十二万人の組合員カンパにより捻出。
─◇若い人たち・予算表◇─ 
企画・製作・監督・脚本…………三二〇万円
全銀連関係諸費(宣伝)……………六〇〃
スタッフの人件費…………………三五〇〃
出演俳優費・エキストラも含む…五五〇〃
ロケーション費……………………一〇〇〃
美術・大道具・小道具費…………二二〇〃
フィルム費現像料も含……………一八四〃
衣装・美術費…………………………六〇〃
器材費(キャメラ・ライト・録音機の使用料)…六二〃
準備費…………………………………一二〃 
通信・電話費…………………………一〇〃
交通費…………………………………五〇〃
宿泊費…………………………………二五〃
食事費…………………………………五五〃
事務所費………………………………二五〃
スタジオ・録音所借用費……………二五〃
音楽費…………………………………六〇〃
タイトル費………………………………二〃
雑費……………………………………一〇〃
合計……………………………二、四〇〇〃
※プログラムに予算表とは!珍しくも、貴重な資料ですねぇ。 (1954・12・15)
●55号 扉は 「億万長者」で始めて使った撮影機
上映は「億万長者」(青年俳優クラブ製作)
企画・本田延三郎 脚本/監督・市川崑 脚本協力・安部公房横山泰三長谷部慶治和田夏十
主演・木村功久我美子山田五十鈴伊藤雄之助
〈解説〉
原爆被害者で、原爆発明に夢中になっている頭の変な少女、十三人の旦那に十三人の子供をもつ赤坂の汚職芸者花熊、姐さんにふられた与党代議士、十八人の子供をかかえて原爆マグロで一家心中する失業夫婦、その長男のイカニューフェイス、二十三人の子供を持つ汚職税務署長、そのアプレ娘、等々現代日本の典型的タイプをデフォルメし、この人達の中を唯一人、非現実的で小心無口な税務官吏をオッカナビックリで歩かして、原爆、水爆の恐怖下にある人類の半狂い的スタイルを描き出す異色作品である。  …って、異色すぎでしょ!(笑)。
◇「億万長者」アンケート集 
猪俣勝人 双葉十三郎 家城巳代治 三木鶏郎 飯島正
…総じて、〈意欲は買うけど、お疲れさま〉といった感想です。
〈映画ファン教育(エチケット)〉
「億万長者」には東京新名所として数寄屋橋羽田空港・小菅刑務所が出てくる。ところが今や現代日本を象徴しているのは3Pであるとのこと、パチンコ・(ヒロ)ポン・パンパン。貧困と心の空虚の問題である。
〈WIPE〉
ピカソが漫画映画の製作を企画しているとのこと。自宅で撮ったカラーフィルムが動機となったものらしい。──ロンドン発。
〈支配人室〉
今週の億万長者はタイトルに監督の名前がありません。実は配給会社がパキパキと写真をカットしてしまったので、崑さんが怒って自分の名前を取る様に申し入れ遂に映画史上に初めて「監督のいない映画」が出来てしまった訳です。 (1954・12・22)
●56号 扉は 黄金の実り(ゴールデン・ハーヴェスト)賞
上映は「金色夜叉」(大映作品)
製作・永田雅一 原作・尾崎紅葉 脚本/監督・島耕二 
主演・信欣三/細川ちか子/山本富士子根上淳
〈解説〉
「地獄門」で好評を博した、大映イーストマン・カラー、総天然色映画の第二回作品である。尚この作品は、東南アジア映画祭に於て、ゴールデン・ハーヴェスト賞(作品賞)を獲得。
◇「民族の持つ色の美しさ」 松山英夫(大映製作本部長)  
日本民族の持つ色彩感覚は、世界でも非常に高く評価されている。「地獄門」ではジャン・コクトー氏が「色彩が演技している」と激賞している。色に対する日本民族のすぐれた感覚を忘れてはならない。  …と、大映カラーを自画自賛。 (1954・12・29)