「広場」10月号_

「広場」10月号

この表紙は川越の「くらづくり本舗」(和菓子屋さん)ではありませんか!隣の建物は「埼玉りそな銀行川越支店」(国の登録有形文化財)だ。
私は、ついこの間この前を歩いてきた。
絵になるんですよねぇ、この雰囲気。広井良昌さんのこのスケッチも、このまま絵はがきになりますね。実際、地元の絵描きさんたちが描かれたものが、いろんなお店に何種類か置いてあります。かつて、アニメ美術家の鈴木森繁さん(故人)も描かれていたっけ…。
今号は、映画関係の記事が充実してるように思えるのだが、気のせいか?(笑)。
前後して「広場」主宰から、復刻版「並木座ウィークリー」を入手されたとの興奮?のメールが届いた。
そのボリュームと内容の濃さに驚いたご様子。それは何よりです。
では、<「並木座ウィークリー」と共に>の月遅れ転載をどうぞ。


並木座ウィークリー」と共に  第三回
──マイ・オールド・シネマ・パラダイス──
この夏、叔父の一周忌があり、親戚の人間が集まった。そこで再確認したことでもあるのだが、この私の、小学校入学当時の私と父の同居はごくごく短期間であったらしい。というのも上京直後に妹が生まれ、父は別所帯を構えたのだ。そう、カズは東京で再婚していたのです。おいおい、なんてこったい!
話は前後しますが、亭主が「東京に行きたい」ということで、私を産んだお嫁さんは愛想を尽かしたのですね「待っていられるものですか」(そりゃそうだって!元々、親同士が決めた縁組で一面識もなかった。昔はそんなのが当たり前)。私が一歳ちょっとの時、実家に戻ってしまいました。当然、母親としては我が子を連れて家を出ようとしたのだが、この赤ん坊もいずれは料亭「柳葉」の跡取りになる人間とばかりにそれは許されません。泣く泣く、乳飲み子を置いての離縁です。なんと不憫なこの私…あっという間に両親が不在となりました。つまり、徐々に傾いていく料亭で「祖父母と孫」の三人暮らしとなったのですね。そんな家庭内の事情は知る由もなく、萬雅堂は無邪気に田舎で幼年期を過ごしていたのです。
さて、父と再婚した人も、新婚の所帯にいきなり田舎から亭主の両親と先妻の子供が押しかけて来たんじゃたまらない。そりゃ、別に暮らしましょうよとなりますわな。まして、二人の間に赤ん坊が生まれるのですから。なんともまぁ、自由人でありますよ、カズさんは!
勤務先の「並木座」に近い場所ということだったのでありましょう、父たちは麻布の借家で暮らすことになり、またしても私たちは三人暮らしです。倅のためにと料亭をたたんで上京した両親は、いきなりハシゴを外されたようなものですな、ヤレヤレ、どこまでお人好し。こうなれば心の支えは只一人。溺愛の対象は「倅から孫へ」と変わっていくのは必然です。こうして、私は究極のおじいちゃん子&おばあちゃん子になっていくのでありますよ。やだねぇ、カズと同じようなわがままな甘えん坊がまた一人出来上がるぜ。チャンチャン!
で、余談でもありますが、この東京の家というのが、な、なんと!のちに漫画界で伝説ともなるアパート「トキワ荘」の至近、椎名町5丁目(2164番地)なのであります。狭い街並の路地数本を隔てただけの、子供の足でも歩いてすぐのその場所に「トキワ荘」は在りました(同2253番地)。そう、手塚治虫が「漫画少年」の紹介でこのアパートに入居したのが正に同時期であります(昭和28年と書き残している。おそらく年初ですね)。寺田ヒロオの入居が手塚から一年後で、その寺田を訪ねて昭和29年に高岡から安孫子素雄がやって来ます。で、その年の暮れに手塚が出て行くと、その部屋に藤子不二雄(安孫子藤本弘)の二人が入る。翌、昭和30年、石森章太郎の入居、さらに赤塚不二夫…となるわけだ。彼ら新人漫画家たちが毎日必死で作品と格闘している最中に、その「トキワ荘」の周りで何も知らずにワイワイ遊びまわっていたのが小学校低学年当時の私たち、彼らに言わせれば「近所の悪ガキ、いたずら坊主ども」ですね(笑)。
さて、「並木座ウィークリー」です。9号から12号のご紹介。
●9号は「此の邊から」(えと文)池部良。2号に続き、二度目の登場です。当時から文才・画才に際立つものが有ったのでしょうね。このころは三十代の半ば。もっとも、漫画家「池部均」の息子で、岡本太郎の従兄弟でもあるそうだから、当然かな。映画監督になりたくてシナリオ研究所から東宝に入社、助監督の「空き」が無く、役者をやらされそれが評判に…という経歴です。
上映作品は、その彼が主演の「坊ちゃん」(東宝)
原作・夏目漱石 監督・丸山誠治 主演・池部良岡田茉莉子(マドンナ)/藤間紫(〆太郎)/森繁久弥(赤シャツ)
エッセイが、「丸山ガンさん」井手俊郎 
監督としてスタートしたばかりの丸山誠治さんについて、その人物像を紹介しています。
もう一本は、「坊ちゃんスター」谷村錦一(読売新聞文化部記者) 
この手の映画の主人公には誰がふさわしいか、というもので、筆者はどうしても池部良鶴田浩二ということになる、と断言。(1953・12・2)
●10号は「並木座讃」(えと文) 宮田重雄 パリの並木道をスケッチした色紙だそうです。文章は虫眼鏡でどうぞ!
上映作品は「雲ながるる果てに」(新世紀/重宗プロ提携作品)
監督・家城巳代治 主演・鶴田浩二木村功岡田英次/原保美
8年前(!)の、神風特別攻撃隊を題材にした映画です。
「世の中は紙一重ということ」というエッセイは、この映画の製作に携わった伊藤武郎。フランス映画人(ジェラール・フィリップ一行)たちからの、軍国主義者の好戦映画ではないかとの指摘に「分かってもらえなかったのか…」との残念な気持ちを述べている。
「観客席」という投書欄には、上映作品の選択に「君の名は」は頂けません、という主旨の意見が二つ。(引きずってますねぇ・笑)。 (1953・12・9)
●11号は「やけあとで」という広島の小学6年生の詩が掲載。
※イラストは作者不明
上映作品は「ひろしま」(日教組作品) 
脚本・八木保太郎 監督・関川秀雄 主演・岡田英次月丘夢路
原爆投下直後の広島と、7年後の今の広島を描いた作品。
エッセイは「?ひろしま?の今日的意義」 深尾須磨子(詩人)
「関川君のこと」 今井正
※当時からさらに五十数年が経過しているにもかかわらず、広島・長崎は未だに重い荷物を背負わされたまま…このプログラムを読むと、何も変わらぬ現在に愕然とします。(1953・12・16)
●12号は「小さなかけら」(画と文)村木忍(「愛人」の美術担当)
この週の上映作品「愛人」(東宝)のセット・デザイン画ですね。
森本薫・作「華々しき一族」より ※最近の「華麗なる一族」(山崎豊子・作)とは違います!山崎さん、タイトルが戴きっぽいね(笑)。
脚本・和田夏十井手俊郎 監督・市川崑 
主演・越路吹雪岡田茉莉子有馬稲子三国連太郎
○「愛人」について 市川崑
プロデューサーの藤本真澄さんから自作を語れといわれて書くが、私のような若い者が「喜劇」と称する作品をつくるものではない。失敗でした。 と…自嘲気味な文を。
○西欧派作品と神経衰弱 岡本博(毎日新聞・学芸部)
市川崑、この西欧的感覚は日本映画界で稀有の資質である。が実はまだ、これが大モノであると吹聴することに多少のためらいがないわけではない。「プーサン」に横山泰三が「青色革命」に石川達三が「愛人」に森本薫があったからである。彼自身の中から、この三作に匹敵する傑作が生まれるまではちょっと安心はできない。
(編集後記)に、
プログラムが大変御好評を戴き益々張り切ってますが、無造作に捨てられているプログラムを見つけると気持ちにおだやかならぬものがあります。不足しがちな貴重なプロにつき、どうぞお持ち帰り下さって御鑑賞の記念として下さい。男便所に落書きされてほとほと困ります。「君の名は」の時が一番多かった。犯人よ君の名は誰ですか。  …だって(また「君の名は」だ!・笑)(1953・12・23)