「広場」6月号到着_

月刊「広場」6月号

徐々に発行が早まっている。しばらく前までは10日発行が通常だった気がするが…。
私の叱咤が利いたのか(んなこたぁない!)
今号は誰かさんのワンマンショーでなく(笑)、執筆陣が急増、実にバラエティーに富んだ誌面となりました。これからもこんな調子で行きましょう。いや、彼の文が減るのもそれはそれで寂しいが…(どっちだい!)。
今号の表紙は白井祥隆さんで「まいごの子犬」。
「あなたたちったら!もう」「ご、ごめんよ…」って、子供たちの会話が聞こえてくるようです。
では、<「並木座ウィークリー」と共に>の第11回。


連載も第十一回となりました。並木座の映写技師だった父、カズの思い出を書いているつもりが、いつの間にか自伝のようになってきましたねぇ(笑)。
で、今回分の第44号〈映画ファン教育〉の欄に思いがけない記事を発見したので、それを先ずは紹介しましょう。私が以前(第四回)に書いたことを訂正しなければいけないのです。それは「二十四の瞳」のこと。
〈映画ファン教育〉
★秋のおとずれと共にシーズンのヘキ頭を飾って、いま話題を呼んでいるのは木下恵介監督の「二十四の瞳」でしょう。
物語は瀬戸内海に浮ぶ小豆島で、時代は昭和の初めから終戦まで、高峰秀子のふんする大石先生をめぐって小学一年生から大人になるまでの十二人の、二十四の瞳がえがかれてあります。
映画は一年生時代から六年生時代へと飛ぶが、ここで出演している子役も変るのですが、一年生の子が皆んな大きくなって出てくるので観客はほほえましく驚くのです。
それもその筈です。これは皆兄弟、姉妹なのです。昨年の七月この作品をやるべく全国から兄弟五組、姉妹七組を一般募集したのです。応募は約千八百組あり、これを写真選考で約九十組に減らし、さらに、木下監督と、楠田浩之カメラマンが面接して決定したものなのです。
これで子供が似ているのはおわかりでしょうが、この子供たちが成長してからの大人の役をやる俳優も、なるべく各組の子供に似ている人を選ばねばならないのです。で松竹じゅうを探しまわったが、月丘夢路、小林トシ子、井川邦子、田村高広のほかには、既成スターの中には見当ず、文学座俳優座の研究生を動員したり、松竹の事務員をかり出したりして配役したとの事。 ※以上、原文ママ
これを読むと、「へえ〜ッ、そうだったんだ。いやぁビックリ! なるほどねぇ、そりゃそうだよなぁ…」です。
私は、「二十四の瞳」に出演の子供たちは、小豆島での現地調達だったと聞いている。と書きました。どこから出た話なの?「並木座ウィークリー」にこう書いてあるってことは、カズから聞いた話じゃない筈。結局は私のいい加減な記憶、思い込みだったんでしょうね。ここに、訂正してお詫びいたします。
今回は、もう一つ42号の〈映画ファン教育〉の記事も紹介させてもらいます。
〈映画ファン教育〉
☆真夏の太陽がじりじりと照りつける酷暑の時でもし冷房のしてある映画館に入るとひんやり感じて、しばらくは暑さを忘れて映画を見てしまう。                     
この映画館にも潜水艦の乗組員みたいに狭くて、熱い場所で、蔭になって働く映写技師がいるのである。客席は冷房してあるが、映写室まで冷房してある映画館はほとんどないであろう。 
なにしろ映写機の放出する熱量は、正にボイラーを抱えているのと同様なのであるから、ここはそれであるから冬でも扇風機をかけている職場である。
このような環境で働く映写技師は常にその映画本来の姿をスクリーンに映写して、それを画面の上に最高の効果をあらわすという苦心がある。スクリーン面の平均した照度映写レンズの焦点調節、上映フィルムの質の良否、使用カーボンの良否等…。 
雨が降ったように画面にキズがあるのは一巻の映写が終るとそのフィルムを巻き直すときに傷がつくのであって、全国各地を転々と廻ったフィルムで、このようなフィルムは一年が寿命であろう。四十度を越す映写室で上映中の映画が急に切れたりすると汗を通りこして冷汗が流れますが、又映写室は客席の上ですから観客の感動、笑い声、共感等が手にとる様に判り、こうした感激を身近に感じると張合いが出ます。 ※原文ママ
う〜ん、これを読むと、カズの働いてる様子が目に浮かぶ。私も、子供のころには何度か映写室に入り込んだ覚えがあるけど、そりゃぁ狭いものでしたね。でも、そんなに熱かったという記憶までは…無い。もしかして、この原稿はカズ自身が書いたのかしらね(笑)。
ということで、今月は「並木座ウィークリー」の記事中心でお送りしました。さて、次号は何を書きましょう…
では、41号から44号の紹介。
●41号 扉は、「どぶ」 水仙屋内部のセット 
※この絵を描いたのは、スタッフ、キャストが撮影期間中に本拠としていた旅館のご主人で、ロケ隊に同行しては常にスケッチを描いていたらしい(三百枚近く)。このプログラムで初めて日の目を見ることになったとのこと(劇場内にも展覧)。
上映は「どぶ」(近代映協)
製作・吉村公三郎 脚本/監督・新藤兼人 
主演・乙羽信子宇野重吉殿山泰司/菅井一郎
〈解説〉「女の一生」以来想を練っていた新藤監督が、ブルーリボン女優主演賞を獲得した乙羽信子との名コンビで作り上げた野心作である。京浜線の川崎市一帯、今の日本の縮図ともいうべきこの特需産業地帯の片隅に水溜りのある荒地がある。このどぶの廻りに住む気の良い人々と、阿呆な娼婦を中心に物語が繰りひろげられる。
阿呆のツルと阿呆の群れの物語   新藤兼人
どぶアンケート集
宇野浩二/近江絹糸女工B子/同A子/秋山ちえ子/津村秀夫/平林たい子吉村公三郎  ※それぞれ感心、感銘、感動。
〈観客席〉さて今週は明るい軽やかな詩の投稿がありました。
……並木座によせて……
八月のポプラの色も美しく
深いみどりの並木道
風と木の葉がささやいて
今日も白い舗道にゆれる影。
日暮れて、ネオンのともる頃
街から街へいそぐ足、
ぽつんと一人で歩く足
足どり軽く、又重く
あの道この道、行き交ひながら
今日も黒いポプラの影をみる。
しばしの「いこい」を求めつつ
この並木座に来る人の
誰もが通る並木道
今日も一つの思ひ出に
輝くポプラを見つめつつ
何時も名画の待っている
この並木座にいそぎ足
私の心は軽かった。
    一九五四、八、十三  TA(1954・8・25)
●42号 扉は 「七人の侍の旗」 と シナリオ抜粋
上映は「七人の侍」(東宝
製作・本木荘二郎 脚本/監督・黒沢明 音楽・早坂文雄
主演/三船敏郎志村喬津島恵子木村功加東大介宮口精二/稲葉義男/千秋実
〈解説〉グランプリ賞並びにアカデミー賞受賞に輝く黒沢明が、日本映画作品賞を受賞した「生きる」に、次いで監督したもので、空前の巨費と長時間を擁して放つ問題作である。赤裸々な人間性を浮き彫りし、芸術性と娯楽性を同化せしめた野心作。
ヴェニスで好評の「七人の侍」〉滋野辰彦(キネ旬編集部次長)
羅生門」がグランプリを得た同じ映画祭での上映に、人々は大きな期待を寄せたであろう。非常な拍手を得たとニュースは伝えている。ヴェニスに出品された「七人の侍」は日本で公開されたものよりずっと短くなっている。我々が見たのも非常に面白い、いい映画だが、あきらかに長すぎた。圧縮すれば一層立派な映画になると思われた。だから私は縮められた「七人の侍」を見たいものだと考えている。
〈映画評紹介〉旬報に発表の、清水千代太氏の映画評の抜粋。
私はこの黒沢明の壮烈な失敗に掌の痛くなるまで拍手をおくり、「七人の侍」を踏み切り台として、さらに大いなる飛躍をすることに満腔の期待を抱くものである。
〈支配人室〉なにしろ三時間半以上の映画を小さな並木座で上映するのは無理な話ですから海外版で再映をしたいものです。(1954・9・1)
●43号 扉は 「渋谷実素描」 
上映は〈渋谷実研究週間〉として三作を六、三、五日間で。
「現代人」(松竹)
製作・山本武 脚本・猪俣勝人 監督・渋谷実
主演・池部良/小林トシ子/山村聰山田五十鈴
〈解説〉人間の良心と、社会道徳を否定する破壊的思想の相剋。
「てんやわんや」(松竹)
製作・山本武 脚本・斉藤良輔 監督・渋谷実
主演・佐野周二淡島千景桂木洋子志村喬
〈解説〉敗戦後の日本人の生き方を鋭い風刺とユーモアで描いた獅子文六の原作をスクリーンに再現。
「本日休診」(松竹)
製作・山本武 原作・井伏鱒二 監督・渋谷実
主演・鶴田浩二三国連太郎佐田啓二淡島千景
〈解説〉一町医者の、ある休診日の事件を通して世相の機微と人の魂の尊さを、飄逸な、而も鋭いタッチで描き出そうとするもので、真の野心作といえる。
〈観客席〉☆渋谷実作品一覧☆ 本年47歳の働き盛りである。(1954・9・8)
●44号 扉は 「山本薩夫素描」
上映は「太陽のない街」(新星映画)
製作・嵯峨善兵 脚本・立野三郎 監督・山本薩夫
主演・日高澄子/桂通子/薄田研二/二本柳寛/原保美
〈解説〉民主文学の古典的名作として国際的にも高く評価された徳永直原作の同名小説の映画化である。スタッフは戦後の東宝争議の闘士ぞろいで、独立プロの盛衰をこの一作にかけ、あらゆる困難をきり抜けて完成した。働く者のヒロイズムを描いた新星映画第四回作品。
〈映画評紹介〉「暴力の街」や「真空地帯」で日本映画に珍しいスケールの群衆劇を組み立てた山本演出の、これは新しい前進である。夏枯れで低調を極めていた日本映画も、この一作で、面目をとりもどしたといえよう。〔採点〕娯楽性(90点)社会性(100点)芸術性(95点) ──朝日新聞 井沢淳
〈WIPE〉民芸「吉凶うらない」製作資金で行き悩み遂に無期延期。青年俳優クラブ作品「億万長者」配給会社決定せず行き悩み。独立プロダクションの道はいばらの道。
〈支配人室〉日高澄子さんから便りを戴きました。この映画の上映中に一度並木座に来られるとの事です。ご活躍を祈ります。(1954・9・22)